市民が企画運営した千里ニュータウン展(その3)

Ⅲ 千里ニュータウン展はなにをもたらしたか

全国初の試みだった、「市民が企画運営する」特別展はなにをもたらしたのだろうか。
第一に、最大の成果は、来館者の数が大幅に増えたことであった。博物館と市民の距離が近くなり、その後の来館者数がふえた。
第二は広報が強化されたこと。博物館経営への市民参加が、マスコミの注目を集め、吹田市立博物館の名を全国に知らしめた。研究者や学生の調査にかかわる聞き合わせが多くなり、館員が博物館と地域おこしを論ずるシンポジウムにまねかれることがあった。市民が独自に立ち上げたブログは、現在もその原型が残されて全国発信を続けている。最近はアクセス数が1,000を越える日もあるほどの人気がある。
第三はイベントの数がふえたことと内容の多様化。講演会やシンポジウムなど学術的なものばかりでなく、市民のコーラスや実験展示の申し込みもある。おでかけイベント、サテライトなどの卓抜なアイデアは、地域のオリエンテーションセンターとして博物館が将来大きな役割を果たすことを予感させる。
第四は運営の合理化。限られた予算のために行ったさまざまの工夫、たとえば、展示費用の削減、図録、ポスターなどのスリム化、メールやHPなどの電子情報手段の採用は従来おこなわれていた方法の見直しと改善を迫っている。

手元に、「千里ニュータウン展に参加して」というパンフレットがある。44名の市民委員が、「なぜ参加したか」、「参加して感じたこと」、「博物館や委員会の今後のあり方」についてのアンケートに答えたものだ。手きびしい批判や注文が多いが、熱中して働いた充実感と喜びが感じられる。その経験と人的ネットワークは他の分野の活動にも生かされているようだ。
「博物館員はもっと笑顔をというコメント」があった。博物館員が専門に閉じこもることなくよりよいコーディネーターとしての役割を期待されているのだと思う。これからの文化事業は「官」に頼るのではなく、市民が支えなくてはならないことは、世界の趨勢を見れば明らかである。最近、大阪府が、財政立て直しのために、府立博物館の特別展費用の全面カットというおどろくべき発表をした。文化へのカネをまず切り捨てるのは行政の常套手段である。廃館の瀬戸際に立たされた旭山動物園を救ったのは市民だった(動物園も博物館である)。そんな危機がきたとき、市民が立ち上がり守ってくれる博物館になってもらいたいと思う。

参考文献
小菅正夫・岩野俊郎(著), 島泰三(編)
2006 『戦う動物園:旭山動物園と到津の森公園の物語』, 中央公論新社。

小山修三
2001 「特集 博物館の集客努力 国立民族学博物館の試み」『全科協ニュース』31(5):1-3, 全国科学博物館協議会。
2004 「市民に開かれた博物館」『博物館だより』23:1, 吹田市立博物館。

坂口佳代
2008 「(橋下ウォッチ)府立博物館 特別展すべて中止」『毎日新聞』2008年2月10日夕刊。

吹田市民委員会(明石尚武・奥居武)(編)
2006 『千里ニュータウン展:夢をくれたまち。ひと・まち・くらし』, 吹田市立博物館。

藤井裕之
2007 「いきいきミュージアム 美術館・博物館事業レポート(68) 吹田市立博物館(大阪府) 市民が盛り上げた特別展」『文化庁月報』470:22, ぎょうせい。

Howard, Ebenezer
1998[1898] Tomorrow : a peaceful path to real reform. (Early urban planning, 1870-1940 / edited by Richard LeGates and Frederic Stout, v. 2). London : Routledge/Thoemmes Press.

Perry, Clarence
1998[1929] The neighbourhood unit : from the Regional survey of New York and its environs, volume VII, Neighbourhood and community planning. (Early urban planning, 1870-1940 / edited by Richard LeGates and Frederic Stout, v. 7). London : Routledge/Thoemmes Press.

■『館報』は無償配布しています。ご希望の方は、吹田市立博物館に直接お問い合わせください。
●千里ニュータウン展の記録は、このブログの2005年10月2006年6月にたっぷりと…

コメント

  1. みっちゃん より:

    私は、市内あちこちで遊んでいて、博物館でも遊ばせていただきましたが、博物館は後味がもう少しよくないんですよね。どうしてでしょう。やった!という達成感や充実感に欠けるところでしょうか。
    企画展が終ったら、もう元の木阿弥。また1から積み上げないといけないところでしょうか。
    少しづつでも博物館に進歩が見られ、次の企画展がやりやすくなったり、1から始めなくても2から始められるといいんだけれど。今後、市民が関わっていくには、博物館と市民とのパイプをもっと太くしてほしいものです。

  2. okkun より:

    千里ニュータウン展は「博物館に」なにをもたらしたか…という視点で書かれていますが、(前もって拝見した時は気がつきませんでしたが…)千里ニュータウン展は「地域に」なにをもたらしたか…という視点が抜けていますね。
    「市民は活性化されたけど博物館は活性化できてない…」と以前カンチョーがぼやいておられましたが、市民が活性化されたのならそれは最高の成果だったかもしれません。市内の多くのグループや人が、ニュータウン展を機会につながりました。祭りは44日間で消えたけれど、その交流は残ったのでは。
    税金を使って活性化された市民としては(もちろん自分も汗をかいたわけですが)、阿修羅のごとく(いろんな形で)周囲に還元していく義務があるのでは…と、襟を正す思いがいたしました。

  3. 団塊の婆 より:

    先日、紫金山公園の中で釜後の発掘現場を見ました。土の中に整然と埋っているのを見て「ふぅん」と感心しましたが、何より感動したのが、発掘の仕方というか、周りの土を垂直にけずっていっていることです。数十センチ以上の深さを垂直に掘るわざ、そんな途中経過なども見せていただけると嬉しいのにな。土に埋っている物を掘るだけかという悪口にも答える方法をもっと考えられると思いますよ。市民なんて、なんでもないことに興味を持ち、感心するものなのです。紫金山公園の中で発掘しているのを特別展にしては?そとで、発掘調査そのままを時系列で展示するのです。何度かの見学会だけではおもしろくない。

  4. てつ より:

    ご無沙汰です ほんものの てつです(^-^)
    ブログで なんども おんなんじ 「千里ニュータウン展」の記事をみつけると 同じなのに 血が騒ぐのは なぜでしょう?(^◇^)
    みっちゃんの 市内 「あちこちで遊んでいて」 ってフレーズに
    かっちょいい って感じるのは 私だけではないはず(^_^)b 
    僕の 生まれ育った街の 博物館 いい場所にあって いいロケーションで 何が 足りないの???????(^_^;

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