平成19年度美術館等運営研究協議会(テーマ:地域とミュージアム)報告(その3)

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さてさて、いよいよ2日目のようすをお知らせしましょう。

当日の日程は次の通り。
第2日(2008年2月26日(火) 東京国立博物館・平成館大講堂、東京文化財研究所・会議室など)
H研究協議
第1分科会「地域活性化とミュージアム」
第2分科会「地域文化資源とミュージアム」
第3分科会「地域ミュージアムのネットワーク」
I全体会(各分科会からの報告)
J講演2「地域とミュージアムをつなぐ」山本育夫(特定非営利活動法人つなぐ理事長)

この日は朝10時から夕方3時30分まで分科会にわかれての「研究協議」です。どうでもよいのですが、この催しは特殊用語がいっぱい。そういえば、日程には挙げてませんが、「行政説明」が数回合間にありました。文化庁の人が実施中のプロジェクト(「まちに活きるミュージアム」とか「市民から文化力」とか)について説明してくださるんです。そういえば、(これこそどうでもよいが)懇親会じゃなくて「情報交換会」でした。で、何がいいたいかと申しますと、この「研究協議」の意味がよくわかりませんでした。聞くところによると、分科会によって進め方も違っていたみたいです。みんなで話し合う場ということでしょう。とまれ、私が参加したのは、もちろん吹田市博(と高知県美)がアドバイザーで出席する第2分科会。ひとまず、そのもようを記しましょう。

まずは、昨日の事例発表についての質疑応答からスタート。こんな感じでした。(枝番号は同一発言者を表します。)

Q1 市民持ち込み資料は、収蔵品になったのか、返却したのか? 記録はとったのか?
A1 市民からの資料提供は2種類。博物館が出品依頼したものは通常の手続きを行ったが、市民委員がダイレクトに展示したものは全部を把握できなかった。(NT資料として重要なものは、返却前に記録を作成。)
↑ここら辺に担当者の苦悩が忍ばれます。ブログでも推察できますが、きっとばたばただったんでしょうね。

Q2 展示を作り上げる際の資料のオーソライズはどうしたのか? 文字原稿作成は博物館の責任で行ったのか? 学芸員は市民と博物館のコーディネートをしたのか?
A2 最も悩ましい問題。最初から最後までお膳立てするとレールに乗せられているような印象を与えてしまう。テーマ(自分たちのまち)の性質もあり、市民委員で詳細を考えてもらう流れを作った。
ただ、委員は展示未経験者ばかりで写真・パネルはともかく「もの」を通してメッセージを伝えることは困難。実際の展示(資料の選定・収集)は学芸員が梃子入れした。

Q2-2 評価・反省を通して次回の事業展開はあるのか?
A2-2 本年度秋期「万博展」は同方法で実施。今回は前もって粗々のストーリーを用意し、資料の情報提供をした。

Q2-3 住民は資料の提供のみだったのか、パネルの内容にも参与したのか?
A2-3 原稿は市民委員が作成。学芸員は一切書いていない。無料配布した冊子は、館長が手を入れていると思うが、学芸員は関わっていない。
↑ここら辺にも各方面調整の難しさが。どこまでやるのか/どこまでやらないかの匙加減は・・・?

Q3 吹田市博の今後の展開・継続は? 市民委員は今後も博物館にどう関わるのか? 新メンバーは?
A3 前述のように今年2回目の展覧会を実施。市民参画で継続事業とすることは織り込み済みだが、今回のやり方を継続するかは検討中。市民ニーズも多様なので、それぞれのニーズにあった参画の仕方がある。方途は一種類ではない。

Q4 地域全体をまきこむ中で、各層で温度差はなかったのか? 住民協力をとりつける方法はどうしたのか? 一本釣りか、来る者拒まずか?
A4 吹田市の場合は(高知県美等と比べて)いうならば「都会・都市型」。もともと博物館に関心のある層があり、積極的に手を挙げてもらえた。
↑うべなるかな。実感あります。NT展の市民委員はやっぱり都市民あってこそです。

Q5 ①市民委員の最終的な落ち着き先・位置づけは? 資金的援助はしたのか?
②資料公募について、想定外の資料もあったのか?
A5 ①任期は募集から展覧会終了まで=現在、市民委員は存在していない。参加レベルはさまざまで、実際に委員に入るかどうかは当人次第。委員への委託料として予算配分した。充分な資金がなく、展示物によっては委員が送料負担を企業に掛け合ったことも。
②展覧会開場後も展示品を追加するシステム=継続受付していた。新規は持ち込みコーナーで対応、展示にはめこめないものもあったが、広報時に必ず展示するわけではないことを断っておいた。
↑いろんな団体が一事業にからむ場合、予算配分は(公費の場合とくに)重要な問題です。委託料は斬新かも。しかし、当県でも委託(不透明な印象あり?)は極力削除するように指導されます。

一通りの応酬が終わると、やや唐突な感じで「『地域文化資源』をいかにとらえるか」各自の意見を求められました。例えば・・・ (以下、発言順。吹田市博の見解も含まれています。わかりますか?)

・「資源」は、「水」と「水資源」のように「文化」を抽象化する言葉。
・体験に基づく実感として、「文化資源」=「文化財」。
・役所主導のハード整備で、歴史文化資源のリストアップをしている。
・資源として「人」が大。博物館活動を通して地域で活動する人々が出てきて、人のつながりができた。事業を通して参加者の糧となり、参加者に利益が戻っていくのが理想的。「もの」以上に「人」が大切。「人」は将来の文化を支える存在になる。
・結果的に「人」が一番大事。プロジェクトによって自律的に活動を始める地域住民が生まれ、新しい何かができた。博物館に関心をもつ人を作る。結果的に人と人のつながりが大切で、施設がなくても人さえいれば何とかなる。
・とらえ方は館のコンセプト・フィールド・設立母体・設立事情による。当館では人材(職人)も文化資源。
・文化「資源」は活用(まちおこし・商品価値など)が前提。
・文化財=価値の定まったもの、文化資源=これから定めるもの。
・人・もの・こと、いずれも文化資源になり得る。資源化する=博物館がやっていくべき仕事。
・鉱物資源のように動力になり得るもの、つまり、人を動かすものが文化資源。よって、海外美術も文化資源。

全体に抽象論が多くて、行ったり来たり。語弊がありますが、言葉遊びの感がなきにしもあらず。中には、「地域文化資源とは単純に歴史的建造物のことだと思っていた」という実に素朴な意見もありました。そういうわけで、企画者は、この言葉にフォーカスして議論を進めたかったようですが(そうと知っていれば、もっと下調べしていささかなりとも実のある議論に展開したかったところ・・・)、博物館の役割とか地域住民の関わり方に話が逸れることが多々ありました。いわく・・・

・文化財を守り伝える人たちにその価値を再認識・再評価してもらうのが館の使命。
・総合的学習対応で学校との連携が増えているが、教員は異動も多く、先生自身が地域を知らない。教員への情報提供も博物館の役割。
・市民参画も博物館のアイデンティティ・コンセプトと齟齬を来してはならない。うっかり公民館の文化祭になってしまう。

全体に論議の筋道を見失って空転しかけていたところ、「学芸員ではなく行政の文化政策担当」という参加者から

・学芸員こそが地域資源。昨日来の議論を聞いていると、市民に寄りすぎだと感じる。来場者は専門家による検証のしっかりした展示こそをお金を払って見に来る。市民と一緒に作った展示を有料で公開するのは疑問。学芸員は行政でもできることをして専門性を下げることにならないようにしてほしい。

という発話があり、ちょっとピリッとしました。午前中から核心を突いた陳述を連発していた某氏からも

・ボランティアは博物館利用の一形態。博物館はインプットの役割をしてきたが、アウトプット(知識の活用)のニーズも増えてきた。ボランティアは博物館にボランティアをしに来る利用者。博物館=品質保証・アウトプットの場。

という卓見が。鋭いぞ。ちょっと言葉遊びだけど。
ところで、住民参加事業は予想以上に(おそらくは同時多発的に)各地で実績があるらしく、その実際面の苦労話もちらほら出ました。

・郷土出身の偉人について顕彰会から強力な突き上げがある。博物館に主導権のない住民参加は地域ポリティックスに取り込まれる危険がある。
・文化ホール建設を計画中。市美術協会の縄張り争いの場になり困惑している。

また、ベテラン学芸員さんからは、博物館を取り巻く環境の変化がすさまじく、報告事例などは「昔の学芸員からは考えられない」という感想も。

そんなこんなで、結論らしき結論には到達できなかった(終了後、全体会で報告者が苦労されていました)のですが、全国の同業者の皆さんとご一緒できたのはよい刺激になりました。ここから蛇足→ 全体に、学芸員って抽象論に弱いな~と感じました。東京でシンポジウムやら講演会やらを聞きに行くと、しょうもない講話だと、フロア(例えば、とんがった学生)から鋭いつっこみがあって、すかっとすることがあります。今回は参加者が良い意味でも悪い意味でも均一化されすぎてて、議論沸騰にはならない状況だったんでしょうか。テーマが広大すぎたせいもあるかもしれません。関係あるのか?どの講師も「与えられた演題が大きいので」とか何とか前置きしてからお話されてたような。次回は効果的な予習ができそうな的を絞ったテーマを期待しております。

すっかり忘れそうでしたが、最後はJ講演で終了です。講師は、元山梨県美の学芸員さんで、かの有名な美術(館)教育雑誌『DOME』(残念ながら休刊中)編集長。現在、「ミュージアムの通信簿」づくりや山梨県博とのコラボで地域のガイドブック+ツアー開発というユニークな活躍で知られる人物です。ソフトな語り口で骨太なミュージアム改革論を展開されました。刊行物が多いのはもちろん、ネットも活用されていますので、HPをご参照ください。

という次第で、私の報告はおしまいです。最後までお付き合い(途中まででも)ありがとうございました。この種の勉強会・研修、その他催しについて情報ありましたらご教示ください。

(ミュージアムひだ M)

コメント

  1. M(その2) より:

    (さっきの続き・・・)-----
    飛騨に遠征したカンチョーに委員さんからダイレクトに携帯電話がかかってくる状況を見ていると、一学芸員ではとても全体をコントロールできないなという印象を受けました。すいはくの場合、立派にムーブメントになっちゃってますものね。よいことなので、よいこととして、全体で盛り上がっていくためにも、博物館やお役所の「事情」にも少しだけ配意いただければなぁ~・・・と、これは同じギョーカイの人間としてお願いしたいと思います。

  2. 万博ミュージアム より:

    わああ、間違えて書いていました(今まで気がつきませんでした)NT展を「突っ込みどころ満載」ではなく、NT展の報告会の発表についてです。でないと次の文章に繋がらりませんし。
    okkunさん、ごめんなさい。

  3. okkun より:

    冊子(図録のこと?)の原稿は「市民の原稿に館長が手を入れた」のではなく、「カンチョーも書いた原稿に市民が手を入れた」のですがね…よくかんがえたら大胆なことやってるわ~。

  4. 団塊の婆 より:

    えーお久しぶりです。
    ところで、NT展、万博展ともに個々の特別展に再来館者はどれくらいいたのでしょうね。そして、この特別展はイベント満載だったのが特徴だと思っています。
    そろそろしっかりとカウントした来館者数把握に努める時期ではないでしょうか。そして再来館者数の把握も大切かと。
    そして、市民委員が関わりだして学芸員さんたがどうかわったのかが私がもっとも知りたいことです。博物館への危機意識がでたのでしょうかね。

  5. M(その1) より:

    思慮なく書き散らしたレポートで皆さんの誤解と不要な怒りを買っていないか心配しております。あくまで一参加者の観点で私見をまとめただけですので、とくに発言者への非難の種にならなければと、切にお願いいたします。すいはくについては外から見ていて、市民の姿ばかりで博物館や学芸員が不思議なほど見えてこないのは気になっています。うまい形で双方のよいところを活かしあえる共同作業の方法がまだ見つかっていないということなのでしょうか。

  6. きょうちゃん より:

    太陽さん~ 春よこい、早く来い、ある始めた「みよちゃん」が・・・。

  7. M より:

    長くてすみません。。。飛騨から東京に出る朝は記録的大雪で膝までの積雪。おかげで、東京の2日間も長靴で過ごしたのでした。------とまれ、生意気&思い込みで書いてますが、ご容赦ください。

  8. あかちゃん より:

    いえいえほんとうにご苦労様でした。詳細がほのみえ、有意義なご報告に感謝します。

  9. おーぼら より:

    ★1)初夢大会にも通じますが、学芸員や事務職員、守衛のおっちゃんたちからも「博物館をどげんとせんと…」の(匿名でいいから)発言が出るようになれば、スイハクにも♪春がき~た~♪となるのでしょうが…
    ★2)「来場者は専門家による検証のしっかりした展示こそをお金を払って見に来る。」これは正論です。20世紀はこの考え方のみでやってこれたのでしょう。(ん?アカンかったやん?ってか?)この思考回路から抜け出せないと★1)のステージ(⇒春ぅ~)、温暖化はまだまだだろーと感じます。
    ★3)春が近い・・・マスクをはずしてしゃべってみたら。。。?

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