最終講演「万博公園の自立した森づくり」

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07EXPO70最終講演は京都大学大学院・夏原由博教授地球環境学堂 森川里海連環学分野)の「自立した森づくり」でした。
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若い人の中には「大阪万博EXPO70が今のような森の中で開かれた」とおもっている方もいるようですが、万博公園づくりは万博終了後4年の1974年から高橋理喜男氏(元・大阪府立大学教授)が座長となって始まり、吉村元男氏(現・鳥取環境大学教授)が実質的設計をした。

1960年代は公害の時代、70年代に入り「工場を緑化しよう」という運動が始まった。当時はエコロジー緑化(=その土地にあった樹木の苗木を密植する方法)が最新技法だった。しかし30年経過すると“本当の森”とは異なる様相を呈してきた。

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70年に万博が大成功で終了し、そのお金で万博記念協会が設立された。公園づくりは(吹田市や大阪市の提言ではなく)政府が「大阪の新しい緑の核(コア)にしよう」と「森と湖の文化公園」にすると閣議決定したことから始まった。

基本計画
高山英華氏と都市計画研究所が「緑のコアとして自然文化園地区を作ろう」と基本計画を作った。その中に“自立した森=自然林を目標とした森”を作ろうと書かれた。目標は30年後として、「西暦2000年には森は自立し、熟成期を迎える」計画だった。

目標とする森には三つの概念があった。
●1.中心は密生林:西日本の(潜在自然植生)極相林は(スダジイ、イチイガシ、アラカシ、ヤブツバキなど)照葉樹林なのでこれを再現しよう。
●2.その周囲に“粗生林”=里山or二次林のようなもの=落葉樹林をつくる
●3.人がくつろげる場所として“散開林”=現在の芝生地域=サバンナのパークランド
上記概念のもと、全体で100haを計画した。70年代の植物学者は「極相林こそが価値がある」と考えていたのだった。つまり万博公園の林は、当時どこにでもあった里山林では価値がないとして、30年後に価値ある極相林(密生林と称する)となるよう「潜在自然植生」に合う木を密植する、いわゆる「エコロジー緑化」の手法で植樹された。

森作りの考え方には異なる二つの方法があった。
●1.植えた後は自然にまかせる方法
●2.人間が手を加えて早く森ができるように工夫をする方法
吉村氏は梅棹先生に相談し、街の中にある森だから、自然に任せるよりは2.の方法を採った。

植栽方法
●1.近畿地方の鎮守の森を真似する(植生組成の模倣)、
●2.苗木の密植(10m四方に200~300本の苗木を植える)
3年もたち樹高が3mを超えると(地面に光が届かないので)草刈も不要となる。
やがて強い樹木が生き残る“自己間引き”がおこり通常の山で見られる植生になるという考え方。
●3.郷土種ではないが肥料を与え育てる樹種、中国自動車道から万博公園を守る保護林を植えるなどの方法がとられた。

1974年から植樹が始まった。現在コスモス広場は10年後の樹木の生長が悪かった。この場所は大阪層群の粘土層のため排水不良があった。森にすることをあきらめ、現在の(コスモス、ひまわりの)草原にした。

25年~30年経過してわかったこと
植栽方法よりも基盤条件=土の条件が大きかった。排水改良すると樹木の生長は改善した。樹冠が閉鎖して林床が暗くなり(動植物の)種の多様性は劣化した。樹木はモヤシのような細いものばかりになった。つまり理想の林を目論んだ密生林で生き物調査すると、予想以上に生き物の少ない林とわかった。

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自然林では落雷・台風・枯れ死などで木が倒れることで空間(ギャップ)が生ずると、新しい芽生えがある。人工林でも空間を作ると生き物が増える筈なので、試験区として人工ギャップ15mX15mを密生林内につくった。人工ギャップは2000年4ヶ所(伐採割合を変更した試験区)からスタートした(現在約20ヶ所ある)。

15m四方で100%、95%、88%、57%の4段階の伐採方法を採った。人工ギャップには、茨木市の山から持ってきた表土を撒いた場所もつくり、芽生える木を調べた。(⇒鳥が運んでくれない種類の種を期待している。)7年経った人工ギャップは、モヤシ状に育ったアカメガシワ・タラノキなどの林になっている。

この結果植物の種類は(ギャップ以外の林内では11種が出てきた)ギャップ部分で70種類の木が現れた。そのうち6種類は近郊からの表土によって導入されたと考えられる。それら新しく出現しても57%の伐採のギャップでは半分くらいが3ヶ月で枯れた。100%伐採地では全部が育った。

●2004年から芝生広場で草刈りをしない場所を設けて草地を作ったところ、04年に25種だった昆虫が06年には110種を見るようになった。

●そのほかチョウは23種、トンボは29種(2006年)が見られるようになった。チョウが最も多いのは畑、ついで人工ギャップ、もともとの密生林はチョウが少なく、人工ギャップの効果が認められた。

●万博公園内のトンボ調査ではビオトープの池に一番多く、ベニイトトンボも確認された。

●野鳥では1985年にはコジュケイ、キジ、バン、ヒバリ、ホオジロ、カシラダカなど草原や農地の鳥がいたが現在は見られない。85年には見られず2006年に見られたものにカワセミ、ヒレンジャク、ルリビタキ、ジョウビタキ、ヒガラ、ヤマガラ、アトリ、マヒワ、ウソなど森の鳥が多くなっている。植樹直後の林には隙間があり草はらがあったが、今は草はらがほとんど無く、林が成育したためである。

●哺乳類ではキツネ、イタチ、ネズミが確認されている。タヌキもいるだろう。アライグマもいるが困ったことだ。多様な動植物のいる公園とするため、希少種の導入も検討中である。

万博記念公園が目指す将来の森
●人が自然と触れあえる森:約70ha
●森への侵入を抑制して自然環境を保全する森:約30ha
このようにして多様な動植物の受け皿となる森の環境整備を進めていく。
●動植物のみならず“人材の育成”こそ大切であると考えている。

●環境調査として炭酸ガス吸収、気温低下への効果などの調査もおこなわれている。
●今後キーストーン種(生態系において、個体数が少なくとも、その種が属する生物群集や生態系に及ぼす影響が大きい種)について、調査する必要がある。
さらに、
●今後継続してキノコの調査をしてくださる方を待っています。

(岡村 Gさん おーぼら)

 

コメント

  1. G より:

    万博公園跡地にマンションを建てると何兆円という皮算用をしていた人が多かった時代に、自然の森を目指す公園を作ることを決めた人は偉い。最近、行政減量・効率化有識者会議が、日本万国博覧会記念機構は民営化する必要があると言い始めている。官庁の効率化は言うまでもないが、万博公園のように経済価値で測れない所を、民営化した会社が管理し利潤を追求しながら、この森を守れるのだろうか。有識者会議の面々には、ぜひ、自然の森を作ると決断した人の爪の垢を、煎じて飲んでもらいたいものである。

  2. きょうちゃん より:

    最近、行政減量・効率化有識者会議が、日本万国博覧会記念機構は民営化する必要があると言い始めている。上のこと~昨夜から今朝<11/30~12/1>は、「脳内メーカー」・・青春時代に読んだ書に、飛んり、今や宇宙に飛んだりだあ~。

  3. 事務次官の妻になれなかった女 より:

    す、すっごい報告、というかレポートですね。講座室で受講した気分になりました。万博公園は子どもをつれて芝生広場やコスモスの丘でのんびり過ごしているだけだったのですが、大勢がいろんなことをなさっていることを知ってうれしかったです。これから万博公園での過ごし方や公園の見方が変わってきそうです。それにしても、学生時代におーぼらさんのはノートは引っ張りダコだったじゃないですか?

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