エミリー・ウングワレー展~アボリジニが生んだ天才画家~(その2)

画像

天才作家エミリーの絵の背景を考えてみましょう。

アボリジニは古くから、洞窟や岩陰、砂上に絵を描いてきました。
エアーズ・ロックやカカドゥ国立公園でそれを見ることができます。現代の絵はそれを利用しているというか、むしろ、昔とちっとも変わらないまま描いているのです。カカドゥにある有名なヌーランギロックの岩壁画は1960年代のものです。

アボリジニの祖先は約五万年前にアジア大陸から移住してきたとされていますが、その後、文化的に孤立したので石器時代的な営みつづけていました。ところが、1976年、英国人がやってきて、この大陸を植民にした。近代文明と対峙した石器時代的社会はみるまに崩壊しました。ところが、遠隔地の北海岸部や中央砂漠地方は、幸か不幸か、開拓に取り残されて、社会とその文化が残されました。ただし、彼らは保護すべき民としてまもられたので、国民として認められたわけではありませんでした。

画像
画像

転機は1967年の国民投票でアボリジニが国民として認められたことでした。その結果、政府はアボリジニ社会の現代化をめざし多額の資金を投入しはじめました。それがようやく軌道に乗ったのは70年代の後半になってからでした。野生のパワーをもった「美術工芸」が社会再生の道を開いたのです。

政府は、主なコミュニティーに白人のアドバイザーを雇い、美術工芸品の品質管理と開発をすすめました。アクリル絵具、カンバスなどの現代的な素材に置き換えていったことで商品化に成功したのです。これによって、みやげ物からファインアートまでの市場がひらけていきました。そんな状況の中で私は走り回っていたのでした。

中央砂漠はその最先端となった地域で、パプニア派と呼ばれる「点描画」とアーナベラ模様とよばれるバテイックが生まれました。この展覧会にもかざられている参考資料やエミリーの初期作品にはその時代のようすを明瞭に見ることができます。

…つづく…
(カンチョー)

写真上:カカドゥ国立公園の岩壁画(2004年撮影)
写真下:アーナベラ工房で製作されたバティック(1982年撮影)

コメント

タイトルとURLをコピーしました