館長ノート:あやしい栽培植物たち(その2)

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ヒガンバナ

9月23日、秋分の日は、晴れわたったいい天気だったので春日山の向こう側にある柳生の里まで出かけていった。
このあたりは、お茶の生産地だからだろうか、農業がしっかりしていて、田畑の手入れがゆきとどいている。最近は、農薬の使用がおさえられるようになったせいか、チョウ、トンボ、ハチなど昆虫がおおい。土手はきれいに草が刈りとられていて、あわい緑のなかに真っ赤なヒガンバナが飾っている(写真 右)。

ヒガンバナは、この時期になると突然、花が顔をだし、そのあとは、葉だけになって冬を越す。だから、「はみずはなみず」と呼ぶ地方があるそうだ(なんだか花粉症になったみたいだけど)。マンジュシャゲ、テンガイバナなどのきれいな名のほかに、シビトバナ、ユウレイバナなどという不吉そうなな名もある。毒々しい赤色や、墓地や荒れ地にさくことからの連想だろう。子どもの頃、近寄ってはいけないといわれたのは地下茎が猛毒だからだろう。最近は観賞用として、花屋や庭に植えてあるのをみるが、たいがいはまだ雑草扱いだ。

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ヒガンバナは三倍体の植物なので実をつけない。それなのに、しぶとく残るのは、地下の鱗茎が切断につよく、掘られても切られても、芽を出すからである。地下茎で繁殖するということは、(風や鳥に運ばれて)海を渡ってくる可能性はないので、人間が運んだのだろうとされている。いつ、なんのために?

鱗茎にはデンプンがつまっている。毒さえなければ立派な主食になる。毒やアクを取り除くのは縄文人の得意技だった。かれらは、水にさらして、トチやドングリのアク抜きをやっているし、ソテツの青酸まで取り除いたのではないかと私は考えている。救荒食としての利用記録や民俗例もけっこう多い。テンナンショウ、サトイモ、クワズイモなどの根菜は、本体が残りにくく、花粉もほとんどつけないので、考古学者の必死の努力にもかかわらず、その存在や利用の証拠をつかみきれないでいる。

中尾(佐助)先生は、これらを照葉樹林文化のなかで生まれた「半栽培植物」と呼んで、六〇〇〇年以降における縄文文化繁栄の原因だという仮説をだした。最近、デンプン分析という新手法が注目されており、これが成功すれば、縄文の根菜問題の決着がつくかもしれない。ヒガンバナは、あやしいどころか、日本最初の栽培植物ということになる。

(カンチョー)

コメント

  1. みっちゃん より:

    彼岸花は、私が好きな花のひとつです。黄金色に染まった田んぼのあぜ道に咲く風景は郷愁をそそります。茎がポン!と折れやすい彼岸花で良く遊びましたが、「家に持ち帰ると、家が火事になる」と子どもたちの間では言ってました。これも、地下茎に毒があるからそんな風に言い伝えたのでしょうね。

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