7月19日(月・祝) 午後2時から京都大学名誉教授の小久保正さんの
講演会「石を探し 石をつくり 石をつくらせる ~医療に役立つセラミックスの骨と歯 ~」がありました。
『石を探し 石をつくり 石をつくらせる』とは小久保先生の個人史なのだそうです。先生の個人史に乗せて医療に役立つセラミックスがどうやって発達してきたかという内容でした。
小久保さんは小学校低学年時代は肋膜炎のため寝たきりで登校することができず、小学校3年から学校に行ったとき「自分は病める人の役に立つ職業に就こう」と決意してました。
1958年大阪市立大学理学部化学科を受験したが入試当日大腸カタルで下痢発熱のためまともな答案が書けませんでした。発表を見に行くと第二志望か第三志望で地学科に合格してた。というわけで心ならずも地学科に入ったそうです。
地学科の勉強はひたすら石や土を求めて歩くことでした。そうするうちに黄鉄鉱とか方解石など美しい結晶や金属を見て感動しました。そしてその結晶を再現したいと思ったりしましたが大学時代には人生の方向を見出せないままでした。「石を探す」時代でした。
大学を卒業するころは結晶化ガラスといって高熱でも変形しないガラスができた時代でした。卒業後京都大学でセラミックスの研究をする場に入ったときから個人史で「石を作る」時代に入ります。研究室ではガラスの平面ディスプレーの研究をしました。しかしうまくいかないまま、そのような生活をして10年ほどした1970年アメリカから「ガラスと骨がくっつく」という(自分の当面の仕事とは)全く無関係な報告を目にしました。無機物であるガラスと生きものである骨がくっつくという現象に驚きました。骨はリンとカルシウムからできています。このガラスにはリンを含ませてあったのです。小久保先生の2才年長のHench教授が考えたものでした。
時代は戻って・・・・1960年に股関節に人工骨頭を埋め込む手術が始まってました。その柄(え)にはステンレスが使われてましたが、そのステンレスを骨とくっつけるために瞬間接着材(セメントと称す)を使ったのでした。しかし生体である骨は接着剤を異物と認識して骨と接着材との間に防御用のコラーゲンの層を作ってしまうことがわかり、このため骨との間がゆるんで固定が悪くなることがわかってきました。
そこで接着剤を使わなくてもいいようにステンレスの代わりにセラミックスが使えないかと考え、1970年高純度のセラミックス=酸化アルミニウム(アルミナ)が開発されました。しかしアルミナですら生体はそれを異物と感知してコラーゲンの皮膜を作ってしまうことがわかってきました。皮膜ができると骨とアルミナはくっつかず、ゆるんで動いてしまうのです。
そのような1970年に上記Hench教授がガラスにリンを混ぜることでガラスが骨とくっつくことを発見したのでした。当時のアメリカはベトナム戦争で骨折した兵士がたくさんいたのでその治療手段としてHench教授が発想したのでした。しかしガラスなので機械的に弱く、骨の代わりにはならなかったのです。
その後の研究で素材の表面にリン酸カルシウム=アパタイトがあれば骨とくっつくことがわかってきました。
丈夫なチタンの表面にリン酸カルシウムを作らせる方法を研究した結果、小久保先生がチタンを酸に浸したあと600度に熱することですべてOKということを発見し、さらに、硬いチタンに骨のやわらかさ、しなやかさももたせるように改良して2007年から骨にくっつく人工骨頭が実用化されるようになりました。「石をつくらせる」時代です。さらに事故で骨がなくなった=骨欠損の患者さんにも骨をつくらせることができるようになり臨床実験中です。
今後は、抜けた歯に使うインプラントで、骨とくっつことで決してゆるむことのない材料が数年後には出てくることでしょう。
(講義の内容を完全には理解できていない おーぼら)
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