未完の原稿: 梅棹さんとわたし

画像このたび『文藝別冊・梅棹忠夫』(河出書房新社)の編集を担当しました。

ぼくの編集者としてのスタートは1983年、国立民族学博物館の広報誌『月刊みんぱく』の担当でした。当時、巻頭に「館長対談」という梅棹先生がホストをつとめる対談ページがありました。編集部員がまわりもちで担当したのですが、いつも虚をつくような梅棹先生のお話は刺激的で、目から何枚の鱗が落ちたことでしょう。

1986年にお目を悪くされましたが、対談を続けるとおっしゃったときはほっとしました。
対談は常時、2つ、3つのテーマが平行してすすめられ、それぞれ対談集としてまとめられていました。視力を失った梅棹先生に、世の中の動きを知ってほしいと思い、「世相論をやりませんか」と提案しました。先生は最後まで「おもしろいなぁ」「おかしなことになってるなぁ」と、対談をたのしんでいらっしゃいました。

梅棹先生に『日本探検』という著作があります。『文明の生態史観』や『知的生産の技術』ほど知られていませんが、日本文明の未来を見通す梅棹先生の思考と体験がいきいきと描かれる、ぼくの大好きな本です。今回『文藝別冊・梅棹忠夫』には、そのシリーズの続編として書こうとしておられた「近江菅浦」の未完の草稿を収録しました。また、構想に終わった幻の名著『人類の未来』も、その手書きの目次を掲載しています。もしこれらが完成していたら、と想像するだけでワクワクするような内容です。同時に、なぜ書けなかったのかを考えることも、のこされたぼくたちに課せられた梅棹先生からの宿題のような気がしています。

(小山茂樹)

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