Vestaという雑誌(味の素 食の文化センター発行)に、『虫食む人々の暮らし』(NHKブックス)の書評を頼まれて書いて送った後、新聞に宇宙食の将来の鍵をにぎっているのはカイコだという記事がでていたのでタイミングの良さにおどろいた。
今の日本で、「ムシ食べたことある?」ときくと、「キャー、きもちわるー」反応が返ってくるのが普通だ。著者の野中健一さんは大学でそんな講義をしていて、セクハラだかアカハラだかで危地に立たされたことさえあったという。
ところが、ムシを食べた記録を調べてみると、ヨーロッパも含めて、世界中に分布がみられる。日本でもそうで、ジバチの巣を熱狂的に追いかけ、ヘボ寿司など、洗練された料理まで創り出している中部山岳地方の一部を例外としても、イナゴ、カミキリムシ、セミなどを各地方で食べていた。
それなのに何故、今日、虫はゲテモノになりさがり、食材の表面から消し去られてしまったのだろうかと不思議であり、その原因は何かを知りたいとおもうのだが、そこまでは書かれていない。いろいろ聞き回ってみたのだが、納得のいく答えは返ってこなかった。ムシは人類の敵(ノミ、シラミ、カ、寄生虫)、後進的、貧困の象徴(アジア、アフリカに例がおおいこと、日本の江戸時代や戦後の食糧難の時代の記憶)、毒がある(薬にもなるけど)など、思いつきばかりで何とも説得力がない。
ヘビを恐れるのは「本能」と言う意見があるが、ムシもヘビと同じなのか、それとも特定の文化の中で生まれた偏見なのか。私自身は経験をへて、後者をとる。オーストラリアのフィールドで食べ物がなくなって、もうアカンという状態に追いこまれるとムシでもヘビでもトカゲでも食べたし(民族学者はツライんです)、一線を越えてしまうとなんということはなくなる〔また食べたいとは思わないけど〕。
石毛直道さんは、食は文化のしばりがキツイものの1つであるという。ある文化では当たり前が、他の文化ではとんでもないになる。しかし、その間にあるバリアーがとれてしまうと、とんでもないは、けしとんでしまう。その典型的な例がスシ。これも私の経験だが、1970年代中頃までスシは、日本の「奇妙さ」を象徴するような食べ物だった。「米のボール上に、ナマの魚をのせ、海の雑草でできた紙に包む」ヤバンな食なんだよねー、とアメリカの友人にからかわれたものだった。ところが70年代の後半、カリフォルニア、ニューヨークでとつぜん火がつき、スシ・レストランが林立する状態になり、それが世界にひろがって今やグローバル食になってしまった。
ムシにもそんなことが起こるかも知れない。野上氏の調査によると、南アフリカの都市では、ムシは商品として生産、販売のネットワークに乗っており、南アフリカ共和国のザニーンの町では、最盛期にはショッピングセンターのまわりにモパニムシ(蛾の幼虫)の露天市場があらわれ、卸業者はジンバブエ、ボツワナの国境を越えて数百キロにわたる地域から3t以上のムシをあつめて供給しているそうだ。 同じような現象はラオスでもみられイナゴ、バッタ、ゲンゴロウ、カメムシなどざっと数えただけで29種のムシがそのまんまから、手のこんだドレッシングまで多様に利用されている。カメムシのほうが牛肉より高いという。だから、穀物や家畜と同じ管理育成の道をたどっているのも当然といっていいだろう。
人類は今、果てしない増加を続けている。ちかい将来、食糧危機がくることは容易に想像できる。そのときの切り札として、ムシが登場する日が来るのではないか。できればその日まで生き残っていたくないものだ。
(カンチョー)
写真は、2006年に民博で開催された「みんぱく昆虫館」より。
ムシ由来(カイガラムシ)の着色料が、身近な食品につかわれている。
コメント
中部の一部ですが…。ヘボ(ジバチ)は貴重なタンパク源だったようです。経験的にも食べるとやはり元気になる気がします。今回のカンチョーノートで気になったのはカメムシ。その生態はいまだナゾが多く、調べる余地がきわめていっぱいあるけれど、調べる人がきわめて少ないムシらしいです。中部の一部の南部でも大量発生することがありますが、どうやって食べるのでしょうか?お教えください。多分試しませんが…。
虫を食ったかと問われれば、イナゴと蜂で無く「密」を食べました。 何時頃や・・・小学校の頃食べました。
イナゴは、佃煮的にした物・・・その朝方に、「大群」に、追いかけられた夢を見て・・それ以来どうも・・。 <あまりにも、身近に居すぎて、学校の帰り道によく追いかけいたので、その反撃かも知れない?>
「蜜」は、以前に書いたかも?。 小学校の「農作業小屋-内装は土壁、外装は、松木の一枚板を焼き黒くした板の小屋」-」の土壁に、蜂が出入り出来る穴を蜂が作ったのか・・とにかく、悪ガキが集まり、構内・室内のお掃除をそち除け、「竹箒」を持って、競って「蜂」をたたき落としては捕まえ、「胴体から半分割り」、2mm球の「生密」を食べました。 <「カバヤ キャラメル」が全盛の時代とはいえ、なかなかお口に出来きなかたので・・・秘密の「密」でした。>