アーネムランドでアボリジニの村に住んでいたころ、心底おどろいたのは彼らの酒の飲み方のスザマジさだった。
マニングリダという町(地方行政の中心)には、月に2回、ダーウィンから食糧など生活必需品を積んだ船がやってくる。潮の加減で入港時間は決まっていないが、頃合になると男たちがぞくぞくと集まってくる。荷揚げがすむと、広場にたくさんの小さな輪ができて賑やかな酒盛りがはじまる。割り当ては成人男子2カートン。そこまではいいのだが、全てを飲み尽くすまで続くのである。
すると、その日は町中に酔っぱらいが徘徊、公務さえ仕事にならない。喧嘩があちこちでおこり、危なくて歩けない。これは多くの部族が寄り集まって住んでいる都会的性格をもつマニングリダに顕著な現象なので、それを嫌って、昔ながらの、自分たちの仲間だけで暮らすアウト・ステーション(小さな村)を作って引っ込むという動きが強くなっていたが、被害はそこにも及ぶ。村に住んでいた頃、真夜中に酔っぱらいが帰ってきて暴れ、村中騒然となった経験もある。喧嘩は時に刃傷沙汰におよび、家庭の暴力や家族の財政破綻などは女性や子どもに深刻な被害となる。若者が都会に出ると、同じ行動をとるので、刑務所に入れられたり、不具者になるほどの怪我だけでなく命までおとす者も多い。
ボスに酒について聞いてみた。
――何でそんなに酒を飲むの
「酔っぱらうとドリ-ミングの世界にいける、神話に書かれたとおりの楽しい世界だ。村の経営はみんな、うるさくて疲れるからなー、癒しだ」
――このビール、熱いなー
「そこらに置いとくと、そうなる。しかし、よくまわる。冷たい方がいいけど、ここじゃしゃーない。、オレの夢はダーウインの娘のところにいって、気を失うまで飲むこと。今、カネためてるところだ。おまえは俺の息子なんだからカネおいてけ」
――若いヤツらが酒飲んで暴れるけど
「困ったもんだ。のみかたをしらないからな、サケはかくれてしずかにのむもんだ、年とらにゃわからん、何事も経験だ」
酒が大きな社会問題であることは、アボリジニ社会に限らず、アメリカやシベリアなど、狩猟採集社会に共通している。サケで滅びた部族も多い。その理由として、ほとんどの狩猟採集社会には酒がないからという意見がある。「酔能」=酒を飲むのも芸である、と言ったF先生の言葉を思い出しながら、熱燗ビールを私も飲んだ。
これはもう30年近く前のことだが、彼らはもう酔能を手に入れただろうか。
(カンチョー)
写真は1982年アーネムランドにて。礼儀正しくビールを飲むアボリジニと日本人。
コメント
ビール展もりあがってますね!あちゃ…あやしい写真が…。