7月31日講座室に
兵庫県立人と自然の博物館館長/東京大学名誉教授の岩槻邦男先生をお招きして『生物の多様性とは?』の講演を聞きました。
人と自然の共生があやしくなってきたのは20世紀の後半から。あやしくなると言葉が必要になる。
里山も1960年代から京都大学名誉教授の四手井綱英さん(1911- 2009)によって言われはじめたが江戸時代からあった言葉だ。文献的には万葉集の時代から人里、里山、奥山という区域分けはあった。
60年代から里山は荒廃してきた。そうなると里山という言葉が必要になってきた。同じく生物多様性という言葉が必要になってきた。生物多様性という言葉は花博のサブテーマとして用いられてから使われだした言葉です。
「気候変動枠組み条約」という言葉だけではなじめなかっただろうが、「地球温暖化」ということばで多くの人が事態を理解できた。
「生物多様性」ということばではわかりにくいが「絶滅危惧種」ということばでなら理解しやすい。
その実態は「人と自然の共生」であり、日本人はうまく共生してきたのだった。里山は日本人の心なのだ。
西洋人の自然観の根底は「自然はワイルド(Wild)であって、悪魔の住むところ」であるので開発、征服する対象であるというものに対し、日本人と自然との関係は、生物多様性によるゆたかな自然の恵みに対する感謝の気持ち、ひっ迫する自然災害に対する畏(おそ)れ、この感謝と畏れの自然観が根底にある。だから日本人は人と自然の共生ということは大昔からやってきたことなのだ。これが里山という風景を作ってきたと考えられる。
小泉八雲(1850-1904)は100年前に「虫の演奏家」(写真参照)で次のように言っている。『自然を破壊してきた西洋人は、虫の声から優美な空想ができる日本人から学ぶべきものがある。古代ギリシャ人と同じように日本人は自然を知ることでは西洋人をはるかにしのいでる。現在の西洋人が自然を失ったことを後悔するにはまだまだ時間がかかるだろう。』100年前の西洋人にむけて書いた内容が、現在そのまま日本人に当てはまっている。
地球上に存在する生きものの実態は正確に把握されているわけではないが名前がついてる種(しゅ)は150万くらい。しかし実際には何千万か、億を超えるという推計さえある。これら何千万かの種は40億年前には単一の型だったことが知られている。
人間も一個の卵細胞からはじまり60兆もの細胞となって自分という個体をつくっている。私たちは意識していないが、人間の生活、すなわち衣食住は何らかの形で生物多様性があってこそなりたっている。毎日食べるものは生物起源だし着るものも住居も生物起源の物質で満たされている。人工繊維ですら石油という過去の生物の遺体から抽出されたものである。
一個の細胞が独立では完結できないようにヒトという種は億にも及ぶかという多様な種のなかに入って、はじめて自分の生を確保することができるのだ。自分のからだの一部が傷つけられるとか失うとなると大騒ぎするし、まして他人を傷つけただけで犯罪として裁かれる。しかしヒトは地球に生きる生命系を傷つけることにほとんど無関心であるというのが現在の生きざまになっている。
今日の生活で無駄な楽しみのため自然から奪いつづける異常な生活から決別するときだ。そのためにも単に生物多様性という言葉を知っているだけでなく、生物多様性の実態についてすべての人々が関心を持ち、自分の命をいとおしむように、生物多様性と共生する生き方を模索したいものだ。
明治から100年たって西洋文明に追いついた。しかし本当に豊かに、しあわせになっただろうかと考えなおすときだ。考え直すとき知的教育、学校教育はたしかに成功だったかもしれない。つまり「教えられること」は学んだ。しかし「学習する」ということは成されてこなかった。学習するとは自分自身が学ぶことであって、学校で学ぶことではなく生涯学ぶこと、生涯学習そのものである。
生涯学習をする機関としては博物館という機関が非常に大切なものなのだ。たしかに日本の博物館の活動は少し前までは(ヒトハクもすいはくも)貧しい状態だった。博物館活動は地域の人と一緒に自主的学習をする、生涯学習をするというかたちで息づくことが(生物多様性などを学ぶ上で)大切なのです。
(おーぼら) つづく
コメント
よくぞ、講演のまとめを作成してくれました。
是非聞きたいと思っていたのに、いけませんでした。
これを読んだら理解できるでしょうか…。
私も講演会に行けませんでした。この報告を読んで、私と私の生活すべてが生き物のお陰ということを、あらためて感じました。たしかに石油も生き物のお陰でできたもの、化石燃料です。でもそこから人間が作り出した物質によって、人間や生き物が脅かされることもある。人間は何をどう間違ってしまったんだろう。欲に目がくらみ、畏れを忘れたか。人間はまだ、何にもわかっちゃいないってことなんだ。