平成19年度美術館等運営研究協議会(テーマ:地域とミュージアム)報告(その1)

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岐阜県の博物館から研修に行ったMさんが(例の会の)報告と「感想」をおくってきました。2回に分けて掲載します。
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吹田市立博物館・藤井学芸員が「地域住民が盛り上げる特別展」と題して事例発表されました「平成19年度美術館等運営研究協議会(テーマ:地域とミュージアム)」に参加して来ました。職場の研修の一環として行ってきたので報告します。

この催しは、文化庁文化財部美術学芸課美術館・歴史博物館室がオーガナイズ、テーマを変えて毎年開催されています。参加するには「公私立の美術館・歴史博物館の職員」または「地方公共団体の文化行政担当職員」で、各都道府県教育委員会教育長から推薦されねばならず、文化庁からの参加採否は後日県教委から知らされます。なかなか物々しいでしょう。詳しくは、実施要項をご覧ください。

当日も挨拶やら進行やらでたくさんの文化庁職員さんがいらっしゃっていまして、開催までにはさまざまなお役所仕事があったもようです。自分の経験でも、公立館のイベントは、事業自体の仕込みはもちろん、手続きが結構面倒でたいへんなんですが、文化庁はそれ以上みたいです。貴重な機会を設けてくださった裏方の方々に多謝々々。

閑話休題。今回は、全国から130人の参加者がありました。ほぼ9割が学芸員です。(そのほかは行政の文化施策担当者、施設長さんもちらほら。)ちなみにテーマ毎にわかれて討議する2日目の分科会は、第1分科会「地域活性化とミュージアム」62人、第2分科会「地域文化資源とミュージアム」41人、第3分科会「地域ミュージアムのネットワーク」27人という振り分けでした。参加者の関心の所在がわかりますね。

さて、プログラムは以下のとおり。かなり盛りだくさんでした。

第1日(2008年2月25日(月) 東京国立博物館・平成館大講堂)
A講演1「地域とミュージアム 文化政策研究の立場から見る」小林真理(東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学専攻)
B事例発表① 名古屋市博物館「ランドマークとしての博物館 商店街と博物館の連携事業」学芸員・武藤真
C事例発表② 宮城県美術館「地域館連携による相互活性化事業 仙台芸術遊泳2007」総括研究員兼班長・三上満良
D事例発表③ 吹田市立博物館「地域住民が盛り上げる特別展」主幹(学芸員)・藤井裕之
E事例発表④ 高知県立美術館「住民と見直す地域資源」主任学芸員・河村章代
F事例発表⑤ 伊達噴火湾文化研究所「まちづくり資源としてのミュージアム」所長・大島直行
G講義「文化財研究所の業務と博物館支援」佐野千絵(東京文化財研究所生物科学研究室長)

第2日(2008年2月26日(火) 東京国立博物館・平成館大講堂、東京文化財研究所・会議室など)
H研究協議
第1分科会「地域活性化とミュージアム」
第2分科会「地域文化資源とミュージアム」
第3分科会「地域ミュージアムのネットワーク」
I全体会(各分科会からの報告)
J講演2「地域とミュージアムをつなぐ」山本育夫(特定非営利活動法人つなぐ理事長)

Aの講師は、専門は文化政策学。芸術・文化を支える制度や、制度の枠を超えた活動について研究しているとのことで、ミュージアムに特化した論ではなく、「文化経営学」的なお話でした。「文化資源」はこの2日間の要となる重要用語だったので、もうちょっとかみ砕いて詳しくお聞きしたかった。文化施策の歴史的転換から、指定管理者制度に関わる法整備まで包括的な内容でしたので、全体的にちょっと食い足りない感じ。帰ってから図書館で関連本をあさっています。

続いて事例発表・怒濤の5連発(B~F)です。今回のハイライトといえましょう。
名古屋市博物館は特別展「大にぎわい城下町名古屋」と関連して行われたふたつの商店街との連携事業について発表されました。発表にあったいくつかのイベントは、同じ東海地方ではテレビや新聞で見たことがありました。これのすごいのは、展覧会の内容と60年に一度の祭礼の開催年と博物館の立地(商店街の中にある)が見事にリンクした、すごくタイムリーな企画であったこと。名古屋という元気な土地柄もあるんでしょうが、すごくうらやましい成功ぶりでした。
続いて、宮城県美術館からはSCAN(Sendai Contemporary Art Network仙台視覚芸術振興ネットワーク)というアートプロジェクトの事務局としての活動報告がありました。美術館だけでなく大学や商業画廊も巻き込んで地域全体で盛り上がる芸術祭です。せんだいメディアテークのかっこよさといい、仙台はやはり独特の文化都市としての風格がありますよね。ひとつの館だけで終わらない、こうした催しはさまざまな制度の壁で断念しがちなんですが、ひとつひとつの館が財政的・人的・制度的に制約がきつくなる昨今、地域で合同でがんばる姿勢は参考になります。あこがれの段階ですが・・・

さて、いよいよ吹田市博の登場です。「千里ニュータウン展」の事例報告です。内容はみなさまがよくご存じのとおり。レジュメの項目を挙げてみましょう。

1 市民参画展示事業の目的 ←市民参加による体験型博物館の要請があったこと
2 展示テーマ ←千里ニュータウンについて概要説明など
3 展示実行委員会 ←組織図とともに市民委員の紹介
4 参画の目的 ←委員の参加理由(NTに興味あり派・博物館活性化が急務派)
5 展示部会 ←展示内容とストーリー、展示品について
6 南千里サテライト会場 ←団地一室まるごと展示について、とくに新しいコミュニケーションが生まれた話が印象的
7 催事部会 ←ここらへんで時間が押してきました! イベントを項目だけざっと
8 広報部会 ←ブログはここでやっと登場、全国展開のきっかけとなったことが挙げられましたよ
9 会期後の広がり ←@せんちゅう展や北千里アーカイブ、そして今年のわたしと万博展を紹介

聴講者の関心を誘っていたのが、市民委員のこと。展示品が開場後もどんどん増えていったことなどが受けていました。残念ながらQ&Aがなかったので、質疑応答は、2日目・第2分科会のもようでお伝えしましょう。乞うご期待。

高知県美は休校を利用した出張美術館ワークショップを紹介。県美から開催地(高知県の西端・室戸岬のあたり)までは片道3時間だそうで、そこに何度も通いながら実施にこぎつけたそうです。最後まで「市役所の人」にまちがわれながら、地域のお祭りや会合の情報をキャッチしつつ、区長さんやPTA、婦人会に日参しての仕込み作業は涙を誘いました。(明るくお話になっていましたが。)こっちは吹田市より当館の事情に近いです。けれど、高知市在住のアーティストが現地の植物を使った草木染めワークショップを「地域資源」の見直しといってよいのかギモン。3ヶ年計画で継続するそうで、この事業をきっかけに地元にアートイベントの実施グループが自主的に立ちあがったそうですから、前途は(多難ながらも)明るいかな。

最後は北海道・伊達噴火湾文化研究所のご発表。こちらは所長さん自らのご出講です。学者出身で、大学で非常勤講師をされているそうで、上手いし、聞きやすいです。ただ、中身は深い。国指定縄文史蹟の整備に関わる事業が話の芯ですが、皮の部分の抽象論が多くて、普段、具体物ばかり相手にしている学芸員(私だけだと思うけれど)にはつらいか。遺跡調査がきっかけで伊達市に一本釣りされたそうで、課長待遇で市役所にいきなり入って、お役人さんたちに相手にされず苦労されたそうです。嘆き節も共感いっぱいでおもしろかったのですが、愚痴るばかりでなく、それを打破してきた方法(作業着をやめて、きちんとした服装にする等々)を具体的にお話になって勉強になりました。ネットでみると、この方は、結構、名物所長さんなんでしょうか。

これで事例発表は終了。第1日目の最終講義は東京文化財研究所の講話です。長時間の拘束でお疲れでしょうから、話題のトピックス(高松塚古墳壁画)も交えながら・・・と保存科学についてお話いただきました。恐らく方々でお話されているのでしょう、とても整理されてわかりやすく聞きやすい講義でした。それにしても、法整備や国のスタンスで変化しちゃう機構や国際交流は東文研ですらそうなのね、と。

第1日目の報告はここまで。次回は2日目のもようをご報告します。吹田市博のNT展について、各館から質問続々でしたよ。お楽しみに。

(ミュージアムひだ M)

 

コメント

  1. へぐり より:

    どうも。ご報告が遅くなり申し訳ありませんでした。(このブログでは当日中アップが通常モードなので焦ってやったんですけど。)やったのは東京ですが、参加者は当然ながら地方の人ばっかりという催し。2日目の報告はそれが反映してて結構その筋の人には楽しめると思いますよ。

  2. みっちゃん より:

    ぐる~と回ってのご報告に、感謝。
    協議会の様子が知りたかったですから、続きを楽しみにしています。F学芸員の応援団として吹田から、行きたかったぐらいですから・・。それって、迷惑?
    質問の回答がひょっとして、F学芸員と違っていることもありえるモンね。

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