『ウメサオタダオと出あう
文明学者・梅棹忠夫入門』
小長谷有紀著
小学館 2011
本体1300円+税
みんぱくで「ウメサオタダオ展」が開かれたのは今年(2011年)の3月10日~6月14日だった。
展示物はウメサオ資料室にあるメモ、フィールドノート、著作物、絵、写真などを主とした膨大な紙資料、内容も多岐にわたる。しかし陳列品としては平面的だし、ガラスケースに囲い込む従来の方法では、何もわからないだろう。
梅棹さんの『知的生産の技術』は、情報とは何かを論じ、実際の処理法を示すことで、学生やインテリゲンチュアに衝撃をあたえるロング・セラーとなったことは良く知られている。したがって展示の焦点の1つは「情報」となった。また、観覧者の興味を引くための展示には多くの仕掛けがつくられていた。
なかでも効果を発揮したのは「京大カード」、つまり、梅棹さんの情報処理の基本となった道具である。これを「はっけんカード」として会場においた。回答は1821、サンプル数として十分であり、内容も濃いものだった。その分析を行ったのが本書である。
著者はカードに書かれた反応を次の4つに分けている。
1.同一視型:ウメサオさんを「わたしと同じ」と考える。カードに書く、メモをつける、言葉を磨く、から、おなじA型(ちなみにわたしもA型です)、おなじ小学校出身まで。わたしが『梅棹忠夫語る』を出したとき、「同じ考えをしてると思った」といった中小企業の社長的な人が多かったので驚いた覚えがある。
2.ふりかえり型:いつウメサオさんの本に出会ったか、亡き父親の書斎にいっぱい並んでいた本など、とくに知的生産の技術に関するものが多かった。京大カードをうまく使えなかったというのが目立つ。あれはホンマにむずかしいもんです。
3.共感型:この展覧会ではじめて出会った人たち。ノートやスケッチをこまめに撮ろう、ITに利用してあたらしいプログラムをつくりたい、等々大きな刺激を受けたようだ。
4.ひらめき型:母親に必要な知的生産技術、事務教育、協動研究、一ヶ月語学、こんにゃく情報などウメサオさん流の「キャッチ」が利用され、新語がぞくぞくと生まれているのがおもしろい。
ほかに、子どもたちの反応も活発であった。「すごい人」、「世界中いろんなところへ行った」、「長生き」、「本がいっぱい」、「絵がうまい」などとストレートに感心している。フィールドに出ろ、本を書け、長生きしろなどは私たち館員もしょっちゅう言われていたので苦笑い。
似顔絵がたくさん描かれたことが印象的だった(子どもだけでなく大人も)。
日本はアニメの国だからか、それともブログやツイッターの影響か。梅棹さんはキャッチフレーズつくりとともに、スケッチの腕がすごかった。的確にポイントをつくところに相通じるものがある。
ふつう博物館では、特別展などで観客の反応を見るためにアンケートをおこなう。しかし、これはそのワクを破り、観客との対話に成功し、調査の新しい手法が開発されたと思う。資料の迅速な処理と鋭い洞察もすばらしい。一読をお勧めする。
画像は上から、『ウメサオタダオと出あう』 表紙、p.161、p.67、p.107、p.109よりとったものです。
東京にも行ってください。
今日(12/21)からです。
東京の展覧会の特設サイトはこちら↓
http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/umesaotadao/
(カンチョー)
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